出会い・恋愛体験他

愛知で出会った女

その夜は小雨が降りしきっていた。

駅の入口を出て、家路を急ぐところだったが、あいにくの雨のために、駅から出るのを躊躇い、空を見上げた。

ふと、「クーン」という犬の鳴き声がして視線をやると、雨に濡れた子犬が何かを求めるかのように辺りを彷徨っていた。

その光景を眺めながら、「ひょっとしたら、捨て犬かな?」と可哀想にと思いつつも、家に連れて帰るわけにもいかず、仕方ないと思った。

と、レインコートを着た女性が、何やら子犬に近づくと、しゃがんで頭を撫でているようだった。

10分経ち、15分経っても、その女性は犬の側から離れなかった。

駅にはもう人はまばらで、小雨も大体あがったので、子犬と女性はそのままにして帰ろうと足早に駅を出た。その女性と子犬を見ながら。

その瞬間、その女性と目があった。にっこり微笑みかけるので、こちらとしても微笑まないわけにもいかず、ついにっこりしてしまった。

と同時に声をかけた。「どうしたんですか?」と。

ここ愛知に来て、1ヶ月。初めて会社以外で声をかけた女性だった。

「雨に濡れてるから、拭いてやりたいんです。」

「じゃあ、コンビニへ行ってタオルでも買いましょう。」

コンビニはすぐ近くにあったので、彼女を外で待たせ、タオルはなかったので、代わりにハンカチのような柔らかい生地のものを買った。

子犬の体全体を拭きながら、「この犬どうするんですか?」と尋ねた。

すると、「さあ、どうしましょう?」と微笑みながら答えた。

内心「エー!」と思ったが、乗りかかった船、このまま帰るわけにいかず、暫く沈黙が続いた。

と唐突に「この子、連れて帰ります。」と、意を決したかのような声で言った。

「家まで歩いてどれ位?」と訊くと、「40~50分位です。」と答える。

そこで、タクシーを呼んでみることにした。

しかし考えてみると、子(犬)連れだ。

乗せてもらえるかなと思い、とりあえずタクシー会社へ電話した。

案の定ダメだ。でも「ペットタクシーなら大丈夫です。」と言われた。

そんな事今迄考えたことすらなかった。それから調べ、電話をしてみる。何故か全然でない。

辺りを見回すと、1台タクシーが止まっていた。

ダメ元でタクシーの運転手に訊いてみた。

「ペットカゴに入ってて、近くまでなら大丈夫ですよ。」と言われた。

「カゴには入れてないですけど、手に抱えてではだめですか?」と訊いた。

運転手は一瞬迷ったような顔をしたが、「じゃあ直ぐ乗って下さい。」と乗車を促した。

「ヤッター」と思い、彼女にその旨を告げ、二人でタクシーに乗った。

タクシーの中で冷静に考えると、「これはヤバイ展開になったぞ・・・」と考える間もなく彼女の家に辿り着いてしまった。

料金を払おうとすると、彼女はそれを遮って、自分が払うと言って一悶着あったが、最後には「それじゃあ」とお礼を言いながら引き下がり、二人でタクシーを降りた。

家は彼女一人暮らしのアパートだった。これじゃ子犬は飼えないと思って、その事を彼女に質すと、「明日にでも兄に実家の方へ引き取ってもらいます。」と答えた。

安心して帰ろうとすると、彼女が「帰りは?」と訊くので、「タクシーで」と答えると、「じゃあタクシー呼ぶ間に家へ上がっていって下さい。」と言った。

考えてみれば、タクシー呼ぼうにも、ここの場所の説明がつかないし、面倒だ。

「それじゃあ、ちょっとだけ。」と言っておじゃました。

アパートへ上がってみると、先程まで泣いていた子犬が不思議と鳴かなくなっていた。

牛乳を少し温めたものと、さっきコンビニで買っておいたソーセージを食べさせた。

その後、犬は安心したのかスヤスヤと眠り始めた。

この間、二人はずっと犬が寝るまで、その一挙手一投足じっと眺めていた。

ふと我に気がつくと、もう30分も経過していた。

慌ててタクシー会社へ電話し、彼女に電話を代わって呼んでもらった。

この時、一応と言うことで電話番号を交換した。

彼女と別れてから3日が経過しようとしていた。

たぶんもう二度と会うことのないであろう、彼女や子犬の事を想像していた、まさにその時。

時計は午後10時過ぎを指している。携帯が鳴った。

「なんだろう?」と思いながら携帯に出てみる。

彼女は泣いていた。

子犬は当然実家で引き取ってくれるものだとの思いで電話したのに、「絶対ダメ!」と言って断られたそうだ。

というのも、愛知へ出てきて2週間。こちらで職を探し、運良く決まったところに、そんな話を持って来て叱られたらしい。

考えてみれば当然だが、電話口にいる彼女にどう慰め、どう対処してよいのやら考えあぐねていた。

彼女の初出勤は明後日。それまでに何とかしなければならない。

泣いている彼女に、一つの提案として、「とりあえずペットショップに1週間位預かってもらって、その間お互いに子犬をもらってくれる人を探そう。」と伝えた。

愛知で出会った、地元民ではないが、心根の優しい女、それが「惠美」だった。

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